事業戦略とは? 事業戦略の立案の要点を解説
事業戦略の理論・フレームワークは数多く存在していますが、実際の経営者・事業部門責任者には、理論を一から勉強している時間はなく、またあらゆる理論に精通していなければ事業戦略が作れないというものでもありません。
ここでは、フレームワークや理論に関する詳細な掘り下げは脇に置いて、事業戦略策定のための骨格や重要ポイントについて説明していきます。
事業戦略とは?
経営理念・ビジョン、経営戦略、事業戦略、事業計画など、似たような言葉がありますが、位置づけを整理しておきましょう。
経営理念・ビジョン・ミッション
企業経営の方針・目標・使命など、企業のあるべき姿を定義したもの。これを達成することが企業の存在価値。
経営戦略・事業戦略
経営戦略(あるいは企業戦略)は個別事業ではなく企業全体について経営の方針を定めたもので、事業戦略は個別事業(事業部レベル)について事業運営の方針や成長性の方向などを定めたものです。単一事業を営む企業であれば 経営戦略=事業戦略となることもあります。
大局的な観点で事業の方針を定義したもので、目的はビジョンやミッションの達成です。
事業計画
経営戦略・事業戦略は大局的な方針・方法であるのに対して、それを実行するためにはアクションに落とし込み、数値目標を設定して管理していく必要があります。これが事業計画です。
事業戦略の作り方
事業戦略を組み立てるための材料をそろえます。
- 事業目的・目標
- 達成すべき目的・目標を設定
- 経営理念やビジョン・ミッションに沿っていること
- 実現可能性を考慮
- 内部環境
- 企業あるいは組織の持つ特性、経営資源
- 人・モノ・金・情報
- 具体的には、社内の人材、製品や利用可能な設備、利用可能な資金、財務体質、ノウハウや知的財産など
- 外部環境
- 事業に影響する外部の環境
- 市場や顧客、競合、政治経済状況、技術動向など
事業目的・目標の設定
事業戦略を作るにあたって、目的・目標を明確にすることが最も重要です。また、「売上1.5倍」とか「新規顧客の開拓」といった目標設定ではなく、「なぜその目標にするのか?」「経営理念やビジョンの実現にどうつながっていくのか」を深堀りして目標を具体化します。
「売上拡大」→「〇〇セグメントの売上を拡大し、市場縮小が懸念される△△セグメントへの事業依存度を低下させる。」
「顧客満足度の向上」→「既存顧客の満足度を向上して、サービスを継続的に利用してもらうようにする。」
冗長な表現になってしまいますが、具体的に記述することにより、戦略検討当初の目的と手段がすりかわってしまうこと防止し、本質的な目標達成のための戦略を立案できるようにします。
内部環境・外部環境の分析・評価
内部環境(自社の保有する経営資源、強みや弱み)を評価する際には「ウチって技術力あるよね?」という主観的な評価ではなく、「顧客からどのように評価されているか」「競合と比較した優劣」など客観的な視点で分析・評価を行います。
外部環境についても、可能なかぎりデータやマーケティング調査結果などに基づき評価を行います。仮定に基づき戦略を立案しなければならない場合は、実行フェーズにおいて仮定が正しいかを検証するプロセスを組み込むことを意識します。
内部環境や外部環境を分析するためのフレームワークとしては以下のものが有名です。(詳細な説明は割愛します。)
SWOT分析: 内部資源と外部環境を、「強み(Strength)」「弱み(Weekness)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」に分類して分析を行う手法
3C分析: 外部資源「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」と内部資源「自社(Company)」に分類して分析を行う手法
VRIO分析: 内部資源に注目して、自社で保有する経営資源の競争優位性を評価する手法
バリューチェーン分析: 自社の活動の各プロセスのどこが価値(利益)を生み出す源泉となっているか分析する手法
ベンチマーク: 競合企業や他業界の優良企業と自社を比較する内部環境の分析手法
PEST分析: 外部環境の分析を行う4つの切り口「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の観点
ファイブフォース分析: 外部環境に注目して、自社を取り巻く5つの競争阻害要因「競合」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」
事業戦略の組み立て
自社が業界や市場のリーダーでない場合は、弱みを克服したとしても競合に対する優位性を築くことはできません。(一時的に優位にたてたとしても、すぐに追い越されることとなります。)したがって、戦略の構築にあたっては、「強み」を活用することが基本となります。
といっても、実際には「弱点」はたくさん見つかるけど、明確に「〇〇が強み、〇〇は当社がNo.1」といったポイントが見つからないことも多いことと思います。そのような場合でも、実際に事業を継続できているとしたら、既存顧客が自社の製品・サービスを利用している何らかの理由があるはずです。その「選ばれている理由」を先鋭化させることを検討します。
とまあ、基本は基本であって全てではありません。市場環境の変化によってこれまで「強み」であった自社の経営資源が市場に必要とされなくなるということは頻繁におきています。その場合は、市場のニーズが拡大するエリアで、新たな「強み」を段階的に獲得していくという戦略を描くこととなります。
以下、ソフトウェアベンダーの事例を用いて確認していきます。
内部環境 | グループウェア製品を開発・販売 カレンダー・ワークフロー・チャット・プロジェクト管理が含まれる プロジェクト管理機能の評価が高い カレンダー・ワークフロー機能は標準的 チャット機能はオマケレベル 新規顧客は少なく売上は減少傾向 開発技術は高いが、エンジニア数は少ない |
外部環境 | 大手を含めてグループウェアの競合製品が多く、価格競争と機能追加競争が激化している グループウェア市場でのシェアは3% 顧客は中小~中堅規模が多い 顧客の3割はシステム開発会社 |
目的 | 既存顧客のリピートだけでは収益性が悪化してくため、新規顧客を増やし収益改善を図る |
ポジティブな環境要因に着目し、戦略を下記のように組み立てます。
評価の高いプロジェクト管理を独立した製品として提供し、機能強化と他社製品との連携強化を図る。高機能で使いやすい「プロジェクト管理アプリ」をシステム開発会社を主要ターゲットとして販売する集中戦略をとり、グループウェア大手企業との競合を回避し、新規顧客の開拓を行う。
事業戦略の整合性チェック
立案した事業戦略を以下の枠組みにあてはめて、戦略としての整合性をチェックします。
[内部環境の強み]を活用して、[外部環境]に対応し、[組み立てた戦略]を実施して、[事業目標]を達成する。
先ほどの例を、この枠組みに当てはめて確認しましょう。
内部環境の強みを活用
- 評価の高い「プロジェクト管理」機能
- 高い開発能力
外部環境への対応
- 大手を含むグループウェア製品の競争激化
組み立てた戦略
- 「プロジェクト管理機能」を独立したアプリとして提供
- 高い開発能力を活かし、プロジェクト管理機能に特化した機能開発を実施
- 他社製品との連携により、プロジェクト管理機能以外の弱みを補完
- グループウェア製品との競合を回避する
目標
- システム開発会社を主要ターゲットとして新規顧客を開拓する
一応ストーリーとしては成り立っているように見えますが、考慮されていない課題が残っていないか再検討します。未検討事項は下記の通りです。
- 「グループウェアのいちアプリ」ではなく、「プロジェクト管理アプリ」へと市場を変更するため、「プロジェクト管理アプリ」の市場分析(競合・市場規模・成長性など)がおこなわれていない。
- プロジェクト管理アプリを気に入ってグループウェアを利用している既存顧客が、新製品に切り替えてしまう(カニバリゼーション)可能性の考慮。
- 新規顧客のメインターゲットを「システム開発会社」としているが、それ以外に標的とできる市場がないか。
未検討事項についても分析・評価をして、整合性を確認しながら最終的な事業戦略にしあげていきます。
まとめ
事業戦略とは
「経営理念・ビジョンの実現につながる個別事業の目標達成のため、事業の方向性や方法を大局的な観点から定義したもの」
事業戦略の作り方
- 事業目的・目標を具体的に定める
- 内部環境・外部環境を客観的な視点で分析・評価する
- 内部環境の強みを軸に、戦略を組み立てる
- 事業戦略の整合性を確認しブラッシュアップする
環境分析や事業戦略の組み立てに利用できるさまざまなフレームワークの説明などは、またの機会に説明できればと思います。