差別化戦略・コストリーダーシップ戦略・集中戦略

ポーターの「競争戦略」を久々に読み返していたので、その中の三つの基本戦略について簡単にまとめて、そのあと思ったところなど書いてみたいと思います。

競争戦略とは

競争戦略とは、その名から「競合に対して優位性を築くための戦略」と理解されますが、ポーターは「競争の戦略」の第2章 競争の基本戦略の冒頭で以下のように述べています。

競争戦略とは、業界内で防衛可能な地位をつくり、五つの競争要因にうまく対処し、企業の投資収益を大きくするための、攻撃的または防衛的アクションである

「競争の戦略」M.E.ポーター

これを分解して考えると、競争戦略とは以下のアクションとなります。

競争戦略とは

①の業界内での地位として、ポーターは三つの基本戦略(1)コストリーダーシップ、(2)差別化、(3)集中を説明しています。

また、②5つの競争要因(ファイブ・フォース)とは、下記を指します。

  • 競争業者間の敵対関係
  • 新規参入の脅威
  • 代替製品・サービスの脅威
  • 売り手の交渉力
  • 買い手の交渉力

したがって「競合(競争業者)」だけではなく、その他のきょそう要因に対して、戦略がどのような効果を発揮するのかを検討していくことが必要となります。

今回は、競争戦略の三つの基本戦略について、重要ポイントをまとめていきます。

三つの基本戦略

三つの基本戦略

他者に打ち勝つための基本戦略として、コストリーダーシップ、差別化、集中の3つの基本戦略があり、非常にザックリまとめると下記の通りとなります。

  1. コストリーダーシップ→低コスト政策による優位性確保
  2. 差別化→業界の中での特異性を「顧客」から認められる
  3. 集中→経営資源を特定領域に集中させる

戦略によって得られる効果はことなります。また、どの基本戦略をとるかは自分の好みで決められるわけではなく、自社の持つ資源と、市場構造によって選択肢は限定されます。

コストリーダーシップ戦略

戦略の方向性は、「コスト面で優位に立つ」ために効率のよい生産設備への積極投資、間接コストの削減、費用面の効率の最大化を行います。同業者内で低コストNo.1の地位を目指し、市場シェアを獲得します。

コストリーダーシップ戦略の効果

コストリーダーシップ戦略の5フォースへの対処

低コストNo.1の地位に立つことで、同価格でも競合より大きな利益を得られ価格競争に対する防御となり、顧客や供給業者からの価格に対する要求に対しても生産性向上などの対応で乗り切り、低コストによって新規に対する参入障壁を築くことが可能です。(低コスト二番手、三番手の地位ではこれらのメリットを得ることはできません。)

低コストによって同業他社より収益性が高くなるため、得られた利益をさらなるコスト削減に投資することにより、長期的に安定した地位を確保することにつながります。

コストリーダーシップ戦略の必要条件

コストリーダーシップ戦略の実行には、「規模の経済性を得るための積極的な設備投資」や「厳格なコスト統制を行うための体制」が必要です。事業の初期段階では大規模な資金調達が必要となるため、大企業向けの戦略です。

コストリーダーシップ戦略は、製品・サービスの価格に占めるコストの割合が小さい(コスト以外の要素が重要な差別化要因となる)嗜好品や娯楽サービスなどには適していません。コストの削減が製品・サービスの付加価値向上に対する貢献度が低く、新規の参入障壁構築につながらないためです。また、人件費割合の高い労働集約型ビジネスにも適していません。

コモディティ製品・原材料などの製造業や、流通サービスなどを扱う大企業にとっては有効な戦略です。

コストリーダーシップ戦略のリスク

コストリーダーシップ戦略では、継続的なコスト削減努力を行うため、参入障壁が高まりますが、効率化されたオペレーションは市場環境の劇的な変化への対応を遅らせる場合があります。そのため、破壊的イノベーションによる市場構造の変化に大ダメージをうけるリスクがあります。

差別化戦略

顧客から見て、自社のサービスに「業界の中で特異な優位性」を持たせようとする戦略です。ブランドイメージ、テクノロジー、製品の特長、顧客サービス、流通チャネルなど様々な面での差別化が可能です。

差別化において重要なことは「顧客」から見て「価値がある」要素で優位性を築くことです。例えば、「最先端のテクノロジー」を持っていたとしても、顧客がそれを認識できなかったり、認識したとしても重要度を感じなければ、差別化戦略は成立しません。

差別化戦略の効果

差別化戦略が成功した場合は、以下のような成果から業界標準以上の収益性が得られます。

顧客
  • ブランドロイヤリティが得られる
  • 価格感応度(低価格要求)が減少する
  • 製品切り替えコストの発生
供給業者
  • 収益性の高さから高価格要求に対する対抗手段が増える。(業者の切り替えなど)
競合
  • 競争・攻撃の回避
新規参入・代替品
  • 特異性を獲得するために発生するコストによって参入障壁を形成

差別化戦略の必要条件

製品・サービスを特異化し、差別化に成功した場合も、差別化した内容を容易に模倣されてしまうと優位性を維持することができなくなります。

そのため、「差別化」した要素を容易にマネされないための防御策が必要となります。例えば、

  • 知的財産権(特許権、商標権など)による保護
  • 取引先との特別な契約(NDA、独占ライセンスなど)
  • 継続的な差別化強化策(研究開発、品質強化、社内研修など)

差別化戦略のリスク

差別化戦略に成功した場合、市場シェアが拡大できなくなる場合があります。例えば、高品質・高機能で差別化した場合、市場のすべての潜在顧客が高品質・高機能を重視するわけではないため、対象とするターゲット層を限定することになるためです。

集中戦略

業界全体を対象にしたコストリーダーシップ戦略や差別化戦略に対して、集中戦略は、特定のセグメントに対して経営資源を集中することで、低コストや差別化の目的を達成する戦略です。

集中するセグメントは、特定の買い手、製品の種類、地域など様々な切り口が存在します。ターゲットを絞り込むことで、個別のニーズにより丁寧に対応することで差別化を行ったり、コスト低減の効率化を図ることで、特定セグメント内における競争優位性を確保します。

集中戦略の効果

特定セグメントに集中することで、業界全体をターゲットとするコストリーダーシップ戦略や差別化戦略に対して、以下のメリットが得られます。

  • 投資規模が小さくなり、大規模な資本力が要求されない
  • 大企業にとって市場規模の魅力が低いため、中小企業にとっては大企業との競争を回避できる
  • 特定の買い手のニーズに集中することで高付加価値をついかし、特化した製品を提供できる。買い手にとっては他社製品への切り替えが難しくなる
  • 営業・宣伝・マーケティングコストが低くなる

集中戦略の必要条件

集中するセグメントの選択が最も重要です。セグメント内のニーズと市場全体のニーズの差異が大きいほど、集中戦略の効果を高くすることが可能となります。

集中戦略のリスク

対象とする市場を絞り込むため、集中戦略が成功した場合も将来的な成長限界があります。

あまりに狭く市場を絞り込んだ場合は特定セグメント内から期待した収益が得られない可能性があります。また、セグメントの集中度が低い場合は、戦略行動があいまいになり、集中戦略の効果が得られない可能性があります。

考察

ポーターの「競争の戦略」は、1980年に初版が発行されました。私の手元にある邦訳の新訂版も初版は1995年で今から20年以上も前になります。競争戦略の基本的なフレームワークとして現在でもつかわれていますが、現在のビジネスモデルにそのまま適用できないものもあるため注意が必要です。

ひとつは、コストリーダーシップ戦略や差別化戦略が業界全体をターゲットする戦略として書かれていますが、現在の市場はグローバルに広がっているため、多くの業界では何らかのセグメントに集中することが大前提となってきています。

また、情報技術がさまざまな業界に必須の要素となった現代ですが、情報技術については初期投資や費用が小さく、コストリーダーシップ戦略が成立しない市場となっています。「無償」でさまざまな便益が得られるサービスが氾濫する業界では買い手の交渉力に対して「対抗」ではなく「対応」していくことが求められていると考えます。

それでも、三つの基本戦略の「差別化」や「集中」を考えていくことには、以下のメリットがあると考えます。

  • 特定のターゲットに対して絞り込み、それ以外は「捨てる」覚悟を決める
  • 戦略を明確にすることで、アクションを「ブレさせない」ようにする

実際、戦略を明確にしていないと思いつきで全然ちがうことやったりして、大失敗したりってことよくあります。

というわけで、今回は以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。